ドラム・マジック

ダグと僕はバンドを背負って行けるような偉大なドラマーをたくさん目の当たりにし感銘を受けてきたのだと思う。僕たちはドラムが与えるインスピレーションの源になるようなパワーで他人を圧倒する、という同じ欲望を共有しているのだ。

今となっては通巻20号を数える音楽誌『AFTERHOURS』の第10号に掲載された、mice paradeのアダム・ピアースがhimのドラマーであるダグ・シャーリンについて言及した文章の一節だ。
AFTERHOURS』によるmice parade&himの来日公演は、結論から言ってしまえば、最高だった、という言葉に尽きる。素晴らしい音楽のみが持ちうる力によって、まさに圧倒されたのだ。
柔らかい音の上に優しい歌をのせて、流れるような情景を描き出したFLECKFUMIE、躍動するポリリズムと音による対話によって、音楽の原初的な力を呼び起こしたhim、そして、限りない音楽への情熱と愛情を音にして奏でてみせたmice parade。まだ終わらないで欲しい、この時間がずっと続けばいいのに・・・そんな風にみんな心の中で思ったに違いない。ステージ上で最後の音が消えて、客電が点いた後もアンコールを求める手拍子と歓声は10分以上の間、鳴り止まなかったのだから。
いったいなんで、こんなに感動したのだろう。音楽が素晴らしいからと言ってしまえばそれまでだが、ちょっと考えてみると他のライブではなかなか味わうことのできない感覚を覚えていたことに気がつく。ロックやフォークが持つセンチメンタリズムやリリシズム、ジャズやアフロビート、レゲエ、ダブなどのブラックミュージックが持つ音楽のダイナミズムと衝動、それに加えて音楽を演奏することの喜び、それらが全て、この日のステージには内包されていたように思う。
Elliot SmithやRed House Paintersを聴いて切ない気持ちになる。Eric DolphyやFela Kutiを聴いてリズムと音自体の力に驚き、突き動かされるような衝動を覚える。こういった別の種類の感動が一度に訪れることは滅多にないのだ。
ニック・ドレイクのカバー曲。カホンとガットギター、ヴィブラフォンにムーグ。互いの顔を見ながら、まるでリズムで親しげに会話をしているかのような二人のドラマー。
大げさに聞こえるかもしれないが、その場にいることができて良かったと思える瞬間だった。